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サービスひとくちコラム(27)

引用する者の貢献と責任   (日置 弘一郎


 「先生の名前が新聞に出ていますよ」と卒業生の山崎明紀くん(NTTコミュニケーションズ)が教えてくれた。「勝間和代の人生を変える法則」という連載コラム(2010/4/5掲載)である。ジップの法則として、日置「出世のメカニズム」(講談社選書メチエ2003)の内容が書かれていた。

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ジフの法則は、現象としては多く見られるもので、特定の個体や個体群になんらかの資源が集積するという状態を指している。都市の人口が典型的で、最大の都市が突出して大きく、二番目は半分以下に、三番目はさらに少なくといったようになっている。右図中、「Zipf」と書かれたグラフのような形である。自然現象では、大陸における河川の流域面積、面積あたり湖底生物の種ごとの生息数がこのような形を取る。あるいは、個人の所得などもこれになるといわれている。
 このようにさまざまな現象について共通した形態になることから、何らかの一般的な生起メカニズムがあるものと考えられ、それを追求しようとする試みがなされているが、明確にそれを明らかにしたという説明はなかった。それを正のフィードバックで説明しようとしたのが、「出世のメカニズム」であった。つまり、他の個体との最初はわずかの差が次第に増幅される方向にフィードバックがはたらき、大きな差を生み出していくというものである。

 これに対して、勝間氏のコラムは「ネットワーク効果」で説明できるとする。「東京に住んでいると教育機関が多く、就職機会も多いため、全国から人が集まり、さらに栄えるというような好循環が働きます。その一方で、過疎地域ではネットワーク効果が働きにくいため、逆の現象が起きます。」
 この説明では都市人口の説明はできても、そのほかの現象については説明できない。河川の流域面積をネットワークで説明することは難しいだろう。平坦な土地に雨が降って、流れができると、その場所が少し浸食され、次の雨の時にさらに深く浸食されるといった差異を増幅するフィードバック・プロセスが結果として圧倒的に長く、流域面積が大きい川を作る。ネットワークで結んだだけでは説明ができない。仮に人間集団の場合に限定しても、ネットワークでつながっているだけではなく、ネットワーク・レピュテーション(ネットワーク内相互評価)によって、自分の独自性が伸ばされる、あるいは押さえられるというフィードバックによってジフ構造ができる可能性が生じる。
 これは学生に課題を出したときに適当にレポートを仕上げる際によく行われる手法であるのだが、種本を見つけてきて、それをネット検索などで情報を増幅し、あたかも自分の独自に開発したかのように仕上げていく。けれども、本家の説明が十分にわかっていないとしばしば陳腐な説明になってしまう。種本以外の知識が付け焼き刃であるときなど、こういった状態に陥りやすい。

 勝間氏はジフの例をあげて、「このような序列をジップ構造、あるいはジフ構造と呼びます。」としているが、実はジフ構造という言葉は日置の造語である。ジフの法則とか、ジフ分布という言葉が一般に用いられているが、法則も分布も本来の意味で用いられているのではない。そのために、ジフ構造という語を新たに用意した。それをあたかも一般に用いられているように使うのは、言葉足らずなのか、それとも関連の知識が必ずしも十分でないからなのか。
 勝間氏の論点の中核、人生を変える法則に当たる部分は「ジップ構造では、たまたま出世しやすい場所にいたとか、たまたま都市にいたなどの『たまたま』があまりにも効いてしまうため、『勝者はすべてを持つ』ことになります。」とされている。
 この説明はいただけない。ジフ構造のポイントは、環境などの要因ではなく、置かれた集団内でのフィードバックによって、集団内の地位が変動するという傾向を示しており、必ずしも正のフィードバックだけではない。負のフィードバックが働くと、「出る杭は打たれる」ことになり、集団はドングリの背比べという状況になる。出過ぎた杭が伸びる状況から生じるのがジフ構造であり、最初の違いが生じるのはたまたまであっても、それが増幅される状況と縮小される状況はたまたまではない。
 集団の中でのフィードバックの働き方は、十分にその条件が追求されているわけではないが、たまたまに解消されるものではない。種本に使う以上は正確に理解して欲しい。学生に対するレポートであれば、一応の読解はできていないわけではないが、不正確にしか使えていないということで、五十点前後の評点ということになる。
 氏の人気と影響力、伝道師としての貢献などについては、十分に承知しているつもりである。だからこそ、被引用者として補足しておく必要があると考えた次第である。

(2010年4月19日)

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